産科医、小児科医の不足が深刻

人の健康を見る医師でありながら、自分の健康診断を受ける時間がないほど忙しい過酷な労働条件、それに比較して高くはない給料に耐え切れなくなった勤務医が別の診療科に移ったり、非常勤の医師となったり、大都市の病院に医師が集中して地方の医師が不足するといった問題は、一向に改善される気配がありません。

産科医、小児科医の不足が深刻

昨年の診療報酬改定でも開業医に比べて約半分とされる勤務医の待遇を改善し、対応が図られることになりましたが、現場の声としてはそれだけでは全く不十分というところでしょう。これらの問題は随分前から指摘されてきましたが、医学部の定員を増やしても効果が出るのはまだ先ですし、国家試験に合格しても、新人の医師が人手の少ない科(=労働環境が過酷なため敬遠されている科)にいくとは限りませんし、むしろ科目による偏在化はそのまま残る可能性が大の様な気がします。

勤務医が専門を選ぶ際に、どの診療科目を選ぶかは自由ですが、圧倒的に人気が無いのは参加、小児科、麻酔科です。産科は24時間体制(72時間ぶっ通し勤務の人もいます)に加え、福島県立大野病院事件のように医療訴訟が多いので敬遠されます。小児科は、小さい子供だけに注射一本打つのも泣いたり暴れたりと大変ですし、(患者の親からの)クレームが多いのもこの科です。麻酔科は将来の開業が不利といわれていますし、技術的に非常に難しい診療科です。一方、比較的緊急を要さず、難しい手術も少ない耳鼻科、皮膚科、眼科の人気は高くなっています。

実際に医師を目指している学生や研修医と話す機会が何度もありましたが、信念を持って医師を目指したというも確かに大勢います。しかしその一方で、理系で偏差値が高くて「先生から勧められた(成績が下がると薬学部が勧められるパターン多し。これでいいのか進路指導?)」とか、「社会的な地位が高い」、「世の中から病気はなくならないので、食いっぱぐれは無い」といった考えで安易に医学部へ進んだ人も少なからずいるわけです。

そういう人たちは、まず産科、小児科は選ばないでしょう。一方、アメリカなどの海外では医師を志す人は、中学生、患者さんの日常生活をサポートする地域や病院のボランティアなどに積極的に参加して、自分が目指す医師像について考えて進学します。特定の科における医師不足の背景には、このような背景があることも忘れてはならないでしょう。